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〜 タックスエンターテイメント小説 〜 「税務調査最前線」 第7話『こいつら取調室だな』第24章 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜) (多田税理士は、沖山税理士の突然の体調不良が気がかりでならなかった。そして、名誉毀損の罪にならないことを条文で確認しても不安な気持ちは簡単には晴れなかったが、気持ちを紛らわすためにも、ホームページの書き込みを続けることに集中していたのだった。) 「そうだ。正当な理由なしに税務調査を拒否した場合のこともホームページに書いて知らせておかないといかんなあ。今回は、事情があって質問の回答をするまでは、税務調査を拒否しているけど、普通は罰則が適用されるから、キチンと説明しとかないとな。」と、多田税理士は、ホームページの向う側にいる読者のことを考えていたのだった。 相続税でも所得税でも法人税でも、税務調査を拒否した場合には、「1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処す」と規定されているのだ。ただし、これは任意調査の場合なのだから、脱税をしていた場合にはもっと罪も重くなり罰金も多くなる。場合によっては、本当に刑務所に入れられることもあるのだ。これは、ウワサだが脱税額1億円を超えると懲役刑になるとも言われているが、実際はケースバイケースであろう。 要するに、任意調査において、税務署員の質問に答えなかったり検査に応じないと、1年以下の懲役か20万円以下の罰金となるのだ。なので、任意調査とはいえ、罰則規定を設けて間接的に税務調査を国民に強制していることになるのだ。 では、どのくらいこの罰則規定が適用されているのかといえば、ほとんど適用されていないのが実状のようである。 もちろん、理由もなく、ただ税務調査を受けたくないという理由だけで、税務調査を拒み続けると、地域の中で最初に罰則規定を適用されることになる可能性はあるので注意が必要である。 しかし、税務調査を拒んだだけで、普通は懲役刑になることはないと思われるし、罰金についても、たったの20万円の罰金で済むなら税務調査を受けないでおこう等と思ってはならないのだ。つまり、そんな刑事罰の前に、一方的に税務的な処分がなされることになるからだ。 仮に税務署が、任意調査を拒否したからといって、簡単に刑事告発するようであれば、その任意調査のやり方に問題があると考えられるのだ。あくまで、任意調査は、納税者の納得を得ながら進めていくものであるから、今回の黒石統括官のように、怒鳴って机を叩いて、納税者に恐怖感を与えるような調査は、拒否しても認められてしかるべしであろう。 そして、「遺憾」などという、あいまいな税務署の答弁も謝罪には当らないこともしっかりと憶えておくべきであろう。 「あっ、そう言えば、あの小石川さんの事務員さんは円形脱毛症になってしまったと言ってたなぁ。それも、ちゃんと書いておかんとな。かわいそうに。」と、多田税理士は、事務員の被害も記録に残しておくことにしたのだった。 「あっ、そうそう。仕返しについても書いておこう。」 というのも、あまり率直に税務署にものを言うと仕返しされると思っている税理士も少なからずいるのだ。 「沖山先生は、『あんた殺されるよ』とか、忠告してくれる人もいるが、自分は明日死んでもいいから、税務署にはハッキリともの申すんだ、って言ってたな。やはり、国家権力だから恐怖感を感じる税理士もいるよなあ。でも、黙っていたら、いつまでたっても違法・悪質な税務調査はなくならないんだよなぁ。」 「俺って殺されるんだろうか」と、多田税理士は事務所の職員に聞いたことがあった。 「あっはっは。あ〜おかしい。そんな税理士さんがいるんですか今時。時代錯誤か推理小説の読みすぎじゃないですか。アハハ。」と大笑いの職員であった。 税務署は、命の次に大事なお金を取りに来るのだから、そういう意味では「恐い」存在ではあるが、しかし、彼らは公務員なのである。そう、国民の公僕、つまり、召使なのだ。 昭和51年4月1日付けの国税庁の税務運営方針がある。 『納税者に対して親切な態度で接し、不便を掛けないように努めるとともに、納税者の苦情あるいは不満は積極的に解決するように努めなければならない。また、納税者の主張に十分耳を傾け、いやしくも一方的であるという批判を受けることがないよう、細心の注意を払わなければならない。』 運営指針なので、「こうありたいものだ」と言っているに過ぎないのだが、怒鳴って大声を上げることが「親切な態度で接し」ているとは到底言えないのだ。 わが国は、民主国家であり法治国家であるので、税務調査においても民主的に進められるべきであり、税務署員も公務員であり国民の公僕でありことを忘れないでおきたいものだ。 数日が過ぎ、多田税理士は、また心細くなっていた。多田税理士は、沖山税理士にも今回の小石川氏の税務調査の顧問税理士になってもらいたいと考えていたのだが、その容態が気にかかっていたのだった。 弁護士の場合、よく弁護団を結成することはよくあることだが、税理士の場合には「税理団」などと言う言葉を聞くことはない。通常、税理士は自分の顧客の税務調査にしか立会うことがないからだ。 思いきって沖山税理士の携帯に電話をしてみる多田税理士であった。沖山税理士は、すぐに電話に出たのだった。 「あ、もしもし。多田ですけども・・。」 すると、いつもの元気な沖山税理士の声が返ってきて、ホットした多田税理士であった。 「あ、先生。お元気そうですね。随分良くなられたんですね。えっ、今病院ですか。え〜点滴中ですか。いいですかお話して・・。」 「あ〜、いいよ。ただ寝てるだけだから。毎日午前中は点滴せんといかんようにかってね。相変わらず、食事がとれないからな。で、何ね。」 「あ、はい。例の、小石川さんの調査の件なんですが、先生にも加わって頂きたいと思っているのですが、いかがなもんでしょうか。こんな時になんですが・・。」 「ああ、例の件ね。いいよ。小石川さんに委任状もらわんといかんね。で、調査はいつになったんね。」と、気軽に引き受ける沖山税理士の声は、いつもの調子に戻っているようであった。 「あ、まだ日程は連絡待ちなんです。で、お体の方はよろしいんですか。」 「うん、だいぶ良くなったみたいよ。」 「じゃあ、日程が決まったらご連絡をします。」 しばらくして、尾戸巣税務署の野中統括官より税務調査の連絡が入り、次回の調査は平成15年1月29日と決まった。 この間、新聞記者の電話取材を受けた多田税理士は、机を叩いて怒鳴り声を上げた事実を認めたが、謝罪がなかった旨を新聞記者に説明した。記者も関心を持ってはいたが、記事にするにはもう少し「事件性」が必要らしい。例えば、税理士有志が、集団で適正な税務調査を当局に申し入れることがあれば、記事になりやすいということであった。マスコミも関心はあるのだ。 いよいよ、税務調査に突入するのだが、多田税理士は重大なことを忘れてしまっていた。その重大なこととは・・・。 次号に続く。 |