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〜 タックスエンターテイメント小説 〜 「税務調査最前線」 第7話『こいつら取調室だな』第7章 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜) (小石川夫婦は、多田税理士に税務署での面会の様子を思い出しながら話すのであった。話しの途中、小石川昭夫は、こぶしを握り締め両腕を震わせ始めたのだった。) 「大丈夫ですか小石川さん」と、多田税理士は昭夫に声をかけた。 「ええ。大丈夫です。どうも面会の時のことを思い出すと悔しさが込み上げてくるんです。」と、昭夫。 「そりゃあ、売上をゴマカシてた私らも悪いですが、そのことはチャンと謝ったのに、まるで犯人扱いをされるなんて思ってもみませんでしたからね。税務署は納税者を脅かしていいんですか、多田先生。」 「そんなことは出来ませんよ。税務署の調査は、任意調査ですから、あくまでも納税者の同意を得て行うものなんですよ。質問する権利と検査する権利しかありませんから、取調べをする権利もないんですよ。そんな怒鳴るなんて許されてなんかいませんよ。」 「でも私達夫婦は、怒鳴られたんですよ。」と、昭夫は少々ムキになる。 「ですから、面会でどんな風に言われたのか聞きに来てるじゃないですか。具体的なことを聞かせて下さいね。」と、多田税理士は昭夫をなだめた。 「それでは、平成13年に160万円くらいの売上除外を認めた後は、どうなりましたか。」 「はい。そうしますと、初永さんだと思うんですが、手元の資料を見ながら『160万円は平成12年分の売上洩れで平成13年分は300万円の売上洩れではないですか』と言われたんです。」と、昭夫。 「それで、平成13年分の売上洩れは300万円ではなくて160万円くらいですし、平成12年分についてはゴマカシテいませんよ、と答えたんです。」 「ふんふん、それでどうなりました。」 「それが、全然こちらの話しを聞いてくれないんですよ。税務署の方は、平成12年分の売上洩れは160万円で平成13年分は300万円だと自分達の計算と合うんだと、繰り返し話していたんです。」 「何度、私達が話しても信じてもらえず、困ってしまったんですよ。これから先は、話の順番が多少入れ替ってしまうかも分かりませんよ。なんせ、極度の恐怖感と緊張感で、会議室のことを順番どおりに覚えていないですからね。なあ彩子。」と、昭夫は妻に話しかけ、彩子もうなずいていた。 昭夫の証言から、尾戸巣税務署の面会時の様子を再現してみることにする。 黒石『イットウ』は、小石川夫婦が初永上席調査官の話す内容を一向に認めない様子を腕組をしながら聞いていた。そして、腕組をといた腕をすばやく振り上げ、会議室の机めがけて振り下ろしたのだった。 『バン』っと、机を叩く音が会議室に響き渡った。 「うそ言ってんじゃないよ!!遊びでやってんじゃないぞ」と、黒石『イットウ』の大声が会議室中にこだました。 黒石『イットウ』は、小石川夫婦を睨み付け、机を叩いて威圧して、大声で恫喝したのであった。黒石『イットウ』にとっては、朝飯前の芸当だが、小石川夫婦にとっては、恐怖感を味わうには十分効果的であった。 突然、机を叩いて脅かされて、大声で怒鳴られた小石川夫婦は、一瞬「ビクっと」肩をすくませた。小石川夫婦の心臓は高鳴り、膝が小刻みに震え出したのだ。 「あんたは平成13年分の売上もゴマカシていたんだから平成12年分も同じようにやってたんだろう。そうなんだろう。おい。チャンと認めたらどうだ。」 「い、いいえ。平成12年はゴマカシていませんよ。本当ですよ。信じてくださいよ。」と、昭夫はカラカラになった口をやっと動かし説明するのだが・・・。 「いいや、本当のことを言ったらどうだ。平成12年分もやったんだろう。それに、あんたは、先代がやってるのを真似してやったんだろう。なあ、先代も年間300万円は売上をゴマカシてたんだろう。」と、黒石『イットウ』の追求は納まらない。 「いいえ、そんなことはないですよ。先代の頃は、私達は帳簿のこともお金のことも何も知らないですよ。先代が一人で管理してましたし、先代が売上をゴマカシていたなんて知りませんよ。」なんとか、説明する昭夫だが、黒石『イットウ』は聞いていない。 「いいや、年間300万円ゴマカシていたら7年間で2,100万円の売上洩れになんだよ。」 「仮装・隠ぺいだから重加算税がかかるな。延滞税も入れると4〜500万円の税金になるぞ。」 「そんなー。事務員に聞いたことがありますけど、父から言われて決算書や帳簿を書き直したりして売上をゴマカシたりはしていない、と言っていましたし、私達夫婦も父が売上をゴマカシていたなんて知りませんし、身に憶えもありませんよ。」と、昭夫は必死になって説明するのであった。しかし、黒石『イットウ』は、何度も繰り返す。 「先代は、あんたのように年間300万円を7年間ゴマカシていたんだろう。なあ、そうなんだろう。」 昭夫は、自分が売上をゴマカシたので、父親も同じようにゴマカシていたと言われ、困惑していた。自分に弱みがあるものだから、激しく反論することができないのだ。 昭夫の心は揺れていた。『このままでは、いくらかでも売上除外を認めないと許してくれないかも知れないなあ。でも、自分達の知らないことを認めろと言われても、ハイそうですよ、とは言えないよなあ。』と、会議室から逃げ出したい気持ちで一杯だったのだ。 このような、納税者を恫喝する面会が任意調査で認められるのであろうか。いや、そんなことはないのだ。 では何故、机を叩いて脅かし、大声で怒鳴るのだろう。それは、効果があるからに他ならない。今回の場合、納税者は現実に脱税をしていたのであり、納税者側に弱みがあるから、その効き目は絶大である。 息子が脱税をしているのだから、父親も同じようにやっていたのかも知れない。 父親は、亡くなって今は居ないのだが、証拠がなくても、相続人である息子が父親の脱税を認めれば、父親の修正申告をさせることが可能となるのである。 ある面、父親も脱税していたと疑うことは税務署としては当然なのかもしれないが、それは、確たる証拠に基づくものでなければならないし、息子の証言のみで父親の脱税を証明できるものではない。 税理士が同席していたのであれば、息子の証言だけで父親の脱税を認めさせるような物言いはさせなかったであろう。 どんなに恫喝を受けても、知らないことは知らないと言い切らねばならないのだ。しかし、任意調査でそこまで要求されたのでは、一般の納税者はたまったものではないし、また、そのような濡れ衣をかけられるよな任意調査は、違法と言わねばならないのだ。父親の脱税を証明する証拠はまだ提示されていない。 妻の彩子は、昭夫が売上除外について事務員と話していたことを思い出し、「そう言えば、主人が話してたことを覚えているんです。」と説明を始めたが、小石川夫婦は、更に、恐怖のどん底に叩き落とされることになるのであった。 |